心のとびら

先生から伝えたい言葉

生徒の皆さんの心に留めておいて欲しいことを先生が交代で話をします。

もうすぐ朝の話が回ってくる、何の話をしようかなと悩んでいると、皆さんから「大学時代のことを話してください。」とお題をいただき、「大学の時ねー。何していたかなぁ。」と必死に記憶を掘り起こしつつ、昨日のM先生のお話を聞いていて、「あ。私、大学の時、M先生が結婚式を挙げたホテルで働いていたなー。」と改めて気づきました。
私は、大学の時、塾や、家庭教師、ラジオ、居酒屋、バイキング、テレビの緊急速報を流すバイトなど様々なところで働かせてもらいました。その中で、一番記憶に残っているのは、ホテルのウエディングプランナーのお仕事です。私は、主に、結婚式を挙げたいと思っているお客様に、会場案内やどのような式にしたいかという想いをくみ取り、プランを紹介する仕事でした。幅広い年齢層の方と関わることができ、温かい気持ちに何度もさせられ、今でも本当に素敵な体験をさせていただいたと思っています。その中で、一番記憶に残っているお客様のお話をしたいと思います。

ある夜のことでした。お客様が帰ってしまい、片づけをしていると、一人の男性が血相を変えて、ホテルに入って来ました。「すみません、バースデーケーキありますか?」あまりに大きな声で尋ねられ、私も少し戸惑ったのを覚えています。娘の誕生日だから帰り際、買ってきて欲しいと奥さんから頼まれて、今まですっかり忘れていたとのことでした。

ところが私が勤めていたホテルは、土日の挙式以外にケーキを作ることはなく、レストランにも鉄板焼きステーキのお店なので、置いてありません。「少々お待ちいただけますか?」と言い、その時上司だったスタッフに伝えると、「ない。」と即答の返事でした。
そのやり取りを見ていて、がっくりと肩を落として帰ろうとしているお父さんを、スタッフは引き止めました。「少々お待ちくださいませ。」そして、何を始めたかというと、なんと上司は私の頭の上に電話帳を置き、「急いでかけなさい。」とだけ伝え、他のホテルでケーキが置いてありそうなお店に電話をかけ始めました。何度か電話をかけ、4件目でやっとバースデーケーキのあるホテルを見つけると、上司は、「お客様、○○ホテルには、まだ、バースデーケーキがあるそうです。私どもの作るケーキに勝るとも劣らない美味しいケーキを作っております。」と説明しました。そして、私の方から、「お子様はおいくつですか?ろうそくは何本必要ですか?」などと聞き、ライバル店のホテルに説明し、最後に「このあと、お客様がいらっしゃいますから、宜しくお願い致します。」と伝え、電話を切りました。さらに、上司は、「お客様、少々お待ち下さい。草野もこれで終わりですから、一緒に行きましょう。」と伝え、私がそのお父さんを自分の車に乗せて、ライバル店のホテルまで送り届けたというお話です。
2年後、私がいつものようにバイトに入っていると、指名で案内を頼まれました。以前担当した方のお知り合いかなと思っていると、なんと2年前にケーキを頼まれたお父さんの娘さんでした。そのお嬢様から、本当にありがとうございましたとのお礼をいただき、挙式の成約まで決めていただいたというお話です。

「なんのために働くのか」と考えたとき、「自分のホテルに来てもらうため」と考えそうですが、私の上司は、「お客様に喜んでもらうサービスをするため」と即座に言い放ちました。日々、誰かのために何かしたい、と思い生活している人は、自然と人が集まって来ます。心からお客様を喜ばせたいと思ったからこそ、お客様が本当に望むものや心が垣間見ることができたのだと感じます。自分の思いや目先の利益ばかりに気をとられていると心の目が曇って相手の心が見えなくなってしまうのではないでしょうか。突然入り、あるはずもないケーキを求めたお客様!これをラッキーにとらえるのか、アンラッキーにとらえるのかは結局自分次第です。考え方や自分の行動、そして心の在り方次第でピンチはチャンスに変わるんだと実感した出来事でした。生きていれば、必ずトラブルが起こることですが、その時にどんな対応をするのか、自分に正直でいればいつか周りの人は気づいてくれると信じたいものです。今、みなさんがそれぞれに合ったタイミングで、自分のピンチやトラブルを心の在り方で乗り越えることができるよう、お祈りしています。